ベト屋フーズを経営するディン・ティー・トウ(DINH・THI・TU)さん。2006年に最初に来日した際は、技能実習生として縫製工場で3年間働きました。その後ベトナムに戻り、縫製業などで起業。そして、結婚を機に2016年に再来日しました。
日本でフォー専門店を起業しようと思い立ったのは、妊娠がきっかけ。突然の味覚の変化で、これまであまり興味がなかった「食」に対する考え方が変わりました。というのも、妊娠を機にこれまで普通に食べられたはずの「日本食」が、突然食べられなくなり、改めてベトナム料理に目を向けることになったからです。
この時、自炊以外に、気分転換を兼ねておいしいベトナム料理を求めて多くの店に足を運びましたが、ベトナム人の自分が満足する店が少なかったといいます。中でもフォーは「ベトナム現地のような本格的な味を探しても、見つかリませんでした」。ここで、ベトナムでの起業経験も生きて「ないなら、自分で作ろう」とフォー専門店への挑戦を決断しました。
ベトナム本場のフォーを再現するには、まず、スープの開発が欠かせません。ベトナムのフォーは長時間肉骨を煮出したものに、野菜などの自然由来の風味を加えたスープが主流。日本で再現するため、Tuさんは周りの人を巻き込んで何度も試作・試食を繰り返し、現在のスープの原型を作り出しました。同時に、フォーの麺の調達先を探していたところ、日本で生麺のフォーの生産を手掛ける企業と出会ったといいます。そして2021年7月、生麺のフォーとオリジナルのスープによるベトナム本場の味にこだわったフォー専門店を築地に開業しました。
2店目は本郷三丁目に出店。「ぜひベトナムの本格的なフォーの味を日本人にも知ってもらいたい」と、あえて在留ベトナム人が多い地域ではなく、日本人の外食需要が大きい地域に出店しています。Tuさんは「残念ながら日本に住むベトナム人の暗いニュースも増えていますが、お店を通じてベトナムの魅力を発信したい。ベトナム人についてもぜひ深く知ってもらいたい」とベト屋の目標を話します。もっと多くの人に食べてもらう環境を整えるため、今後は少しずつ店舗を増やしていく計画です。